2000年頃を境にミリオンセラー楽曲は年々減少し、
いわゆる「CDの売れない時代」に突入します。
携帯電話やインターネットの普及によって人々の娯楽も多様化し、
1990年代を代表する娯楽の一つであったカラオケも
次第にその人気が落ち着くようになります。
そんな中、カラオケシステムは
当時の先端テクノロジーを導入することで新しい顧客層を開拓していきます。
2003年に第一興商がブロードバンド対応の通信カラオケ「BB cyber DAM」を発表します。
これにより高速かつ大容量の双方向通信が可能となり、
ブロードバンドの特性を生かした新しいカラオケコンテンツが
次々と登場するようになります。
その一つに、全国のユーザー同士でカラオケの順位を競い合える
「オンライン採点機能」があります。
採点機能自体はそれ以前も存在していましたが、
それまでの採点機能はあくまでその場の歌唱者のみを対象としたものでした。
それに対してオンライン採点機能は、ブロードバンド通信を介することによって
日本全国のユーザーの採点結果を母数としたランキング集計を可能としました。
このことによってカラオケ採点機能に「順位」という新しい基軸が加わり、
ライバルよりも上の順位を目指したり自分自身の記録更新を目指したりといった
新しい楽しみ方が生まれました。
また、自分自身の採点結果もデータベースに反映されるので、
少しでも良い点数や順位を履歴に残すために
何度も採点に挑戦するユーザーも見られるようになりました。
オンライン採点機能は、
こうしたゲーマー的な感覚でカラオケを楽しむユーザー層の開拓に成功したのです。
(採点機能のひとつ、第一興商さんDAMシリーズの「精密採点DX-G」)
(採点機能のひとつ、エクシングさんJOYSOUNDシリーズの「全国採点グランプリ」)
他には、カラオケルーム内で自分自身の歌唱を撮影できるコンテンツが登場します。
撮影にはカラオケ機械に備え付きの専用カメラを用い、
ユーザーはモニターに映る自分自身の姿を見ながら歌います。
撮影した動画はカラオケメーカーの運営する専用サイトを介して
他のユーザーに公開することができます。
このコンテンツの提供により、
歌唱動画を友人同士で見せ合って楽しむといった新しいコミュニケーションが生まれ、
友人に見せるためのベストテイク動画を公開すべく、
カラオケ店で何度も歌唱撮影を繰り返すユーザーも見られるようになりました。
さらには、他のユーザーが公開している歌唱動画に対して
自分の歌唱を被せる「コラボ動画」機能も登場します。
たとえば、あるユーザーがデュエットソングの女性パートのみを歌唱撮影し、
その動画を流しながら別のユーザーが男性パートを歌うといった疑似デュエットや、
自分自身でまずはハモリパートのみを歌唱撮影し、
その動画を流しながら自分自身で今度は主線パートを歌うといった
一人コラボレーションなどが可能となり、
カラオケの楽しみ方の幅もさらに広がっていきました。
楽しみ方が多様化したことで、
カラオケボックスの来店層にもある変化が見られるようになります。
それは一人での来店、いわゆる「一人カラオケ」客の増加です。
1990年代においてはカラオケでできることと言えばほぼ歌うことのみだったので、
個室空間で一人っきりで歌うというのはなかなか考えられないことでした。
それに対して2000年代以降のカラオケでは、
前述のとおり採点や撮影などのコンテンツをメインに楽しむユーザーが
多く見られるようになりました。
実はこれらを楽しむ時は、集中できるという意味において一人の方が好都合なのです。
こうした客層や需要の変化に合わせて、2011年にコシダカホールディングスは
日本初の一人カラオケ専門店「ワンカラ」をオープンします。
店内にはネットカフェほどの広さの一人用個室が用意され、
ユーザーはヘッドホンを着用して歌います。
「ワンカラ」の登場によって一人カラオケはますます認知され、
それに伴って一般的なカラオケボックスにおいても
一人カラオケによる来店客が増えることとなります。
筆者が2012年頃に複数の大手カラオケボックス事業者に伺ったところ、
どの事業者も一人カラオケ客の割合は全体のおよそ2~3割程度と回答していました。
つまり、カラオケボックス来店者のうちおおよそ4組に1組は一人での来店ということです。
カラオケもここに来て、昔ながらの「みんなでワイワイ」型だけでなく
「一人でじっくり」型の利用形態も市民権を得るようになったのです。
現代のカラオケにおいては、カラオケボックス等といった店舗の枠を超えて、
ユーザーが広く歌声を披露できる場や機会が増えています。
たとえば、日本全国で大小さまざまなカラオケ大会が日々開催されています。
町内会のお祭りの余興やショッピングモールの定期イベントのような参加しやすいものから、
地方の予選大会を勝ち抜いた日本中の歌自慢が集う全国大会クラスのものまで、
さまざまなユーザーが自慢の歌声を披露しています。
筆者もカラオケ大会プロデューサーとして、
2018年と2019年に「東京カラオケまつり」というカラオケ大会を開催しました。
東京カラオケまつりの出場者は年齢層も4歳から91歳までと幅広く、
タイ・ベトナム・中国・ブラジルなど外国籍の方々も多数出場され、
サプライズゲストとして来賓された東京都の小池百合子都知事も一曲歌われました。
(グランドチャンピオン大会のご来賓として歌唱される小池都知事)
冒頭でカラオケを日本が世界に誇る文化と述べましたが、
年齢も国籍も問わず一般市民も首長も誰しも自由に楽しめるのがカラオケです。
今回カラオケの歴史を簡単に紹介してまいりましたが、
拙稿が読者の皆様にカラオケにより親しんでいただける機会になったとすれば幸いです。
(本記事は雑誌「東京人」掲載用に2019年10月に執筆したものです)
<追伸>
2021年2月2日、10都府県にて緊急事態宣言の延長が決定しました。
コロナ禍においてカラオケは時に感染リスクのある娯楽として報道され、
営業時間短縮要請の対象事業として挙げられています。
ウイルスの感染における要因が飛沫拡散である以上、
マイクを介して声を発する娯楽であるカラオケに疑義の目が向けられてしまう点は、
ある一面においては理解することができます。
しかしながらカラオケ事業者側も当然にしてそのリスクを承知されており、
今ではほとんどの事業者において徹底した除菌・換気対策による感染対策を徹底しています。
また、特にカラオケボックスにおいては建築基準法上、
各部屋に相応の換気設備が求められることからも、
一般的な個室に比べて相応な換気環境を備えています。
感染症の拡大を抑え、収束を目することは、日本中・世界中を挙げての命題ではありますが、
同時に、これまで本文にて述べてきたこの素晴らしいカラオケ文化もまた、
今後も守りゆく必要のある、誇るべき日本文化であると考えています。
文化とは人々の生活を彩り、豊かにしていくものです。
決してコロナに負けることなく、
今後もカラオケ文化を守り・発展させていきたいと思います。