プロ歌手を目指すのであれば採点は控えた方が良いです。

テレビ朝日さんの「お願い!ランキング」の
「スマホで審査、全国歌うまオーディション」というコーナーで、
審査員役を務めさせていただきました。

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「未来のトップシンガーを探せ!」というコンセプトですので、
文字通り、将来、歌一本でプロとして通用するソロシンガーとしての可能性を、
審査員3人にていろいろ話し合いながら審査させていただきました。

ちなみに、番組は生放送ですが、このコーナーについては事前収録。
(収録VTRを生放送のスタジオで司会やゲストが鑑賞するという方式ですね)。

実際の収録時間は4時間ほどでしたので、一人あたり20~30分程度の時間、
フルコーラスたっぷり聞かせていただいて審議させていただいたのですが、
そこは放送時間と編集の都合もあり、それぞれ非常に短いコメントとなっています。

他の先生方は、

160223.avi_snapshot_00.37_[2016.02.25_18.21.45]
歌唱指導のみならず、発声の専門家として数多くの著書を出されている秋竹朋子先生。
http://www.businessvoice.jp/profile.html

160223.avi_snapshot_00.53_[2016.02.25_18.21.33]
海外でのボイトレ経験も豊富で、自らボーカル教室を主宰する吉田研吾先生。
http://yd-voice.com/index.html

唯野を含めた3名の審査員によって、応募者の歌唱をスマホを通して聴かせていただき、
純粋にその時の「歌」のみで判定をさせていただきました。

判定方法ですが、審査員3名全員が
「プロ歌手として通用する土台が既に出来上がっている」
「この方の歌を今度は生でぜひ聴いてみたい!」と
判断された方のみが、今回は合格となっております。

ただ実際のところ、判定については全員ほぼ同意見でほとんど意見が割れませんでした。
このあたり、審査員によって視点はさまざまでも、
プロ歌手として通用すると感じる一定のラインといったものは、
それぞれ基準が共通しているのかなと、改めて感じました。

今回多くの方々の歌を聴かせていただいて唯野が感じたのは、
「応募者全員、芸能界へ進める可能性は十分にある」
ということです。

編集上、「素質あり」 or 「努力が必要」という選択肢になっていますが、

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今回「努力が必要」とされた方であっても、
努力次第で輝く可能性のある、十分に素質のある方々ばかりだと感じています。
少なくとも容姿に関してはさすが全員が輝いていました。

ただ、だからこそ、多くの出場者の歌唱を聴かせていただきながら、
ほとんどの方から見られたある「クセ」について、すごく残念に感じたのです。

それは、発声とビブラート。

まず発声ですが、歌詞の言葉がはっきりしない方々が見受けられました。
一息で歌ってしまうためか、フレーズ同士が繋がってしまい、
その結果、子音がはっきりしなくなり、言葉が「流れて」いってしまっていたのです。

歌手が、歌詞を聞き手に伝えられないことは、ある意味致命的です。
ライブハウスなどで、聴き手(ファン)が歌詞カードを見ながら歌手のステージを観る…、
なんて場面はありえませんよね?
なので、プロ歌手を目指す方々であれば、歌詞を聴き手にしっかり届けることを
まずは第一に考えていただければと思っています。

次にビブラートですが、これも多くの方があらゆる語尾で使用していました。
(ひょっとすると「無意識」なのかもしれませんが、であればなおさら改善が必要です)。
いくら上手なビブラートであっても、多用しすぎるとかえって不自然です。

語尾は余韻を司ると言われます。
たとえば、まっすぐ伸ばす、添えるように置く、すぱっと切る、そしてビブラートで伸ばす、など
歌の構成や個々のフレーズに応じた歌い終え方を工夫することで、
聴き手の感じ方もぐっと変わってくるものです。

Superflyさんの代表曲「タマシイレボリューション」を聴くと、

スタンドアップ モンスター頂上へ(まっすぐ伸ばして切る)
道なき道を(短いビブラートを入れてすぱっと切る)
切り開くとき(母音「ぃ」を入れて歌い終える)
スタンドアップ ファイターとんがって(まっすぐ伸ばして切る)
going’on moving’on(すぱっと切る)
戦いの歌 未知の世界へタマシイレボリューション(ビブラートで伸ばす)

このように語尾を歌い分けていることがわかります。

それが、無意識(あるいは意識して)ビブラートを入れて歌う方の場合、
この曲の「頂上へ」「切り開くとき」「とんがって」
などの語尾にもビブラートを加えてしまうのです。

このあたり、Superflyさんに限らずさまざまなプロの方の語尾の歌い終え方を研究して、
自分なりの語尾のバリエーションを増やしていくと、
ますますスケールアップした、聴き手に飽きさせない歌唱になることかと思います。

ところで、こうした発声やビブラートの問題について、
今回応募された方々は基本的には十分上手なのに、
なぜ多くがこのような歌い方になってしまうのか…。

以下の発言はテレビでは使われることはないと思いますので、この場でのみ申し上げます。
採点機能の「使いすぎ」によるものと、唯野は想像しています。

実際、番組では採点機能による点数も公表していましたが、
確かにみなさん高得点で、音程のパーセンテージも90%以上でした。
(ちなみに審査員3人には収録時、採点機能の映像や点数は見えていません)。

しかしながら、音程が「合っている」ことと、聴き手に歌詞が伝わることは別物です。
極端な話、今の採点機能のロジックでは、全てを「ららら~」で歌っても、
音程が合っていれば十分に高得点となります(発音は採点対象外のため)。

もちろん正しい音程で歌うことは大事なことです。
しかしながらそこで終わりではありません。
音程を合わせたうえで、「どのように聴こえるか」を意識することで
より聴き手の耳に・胸にぐっと届く歌唱となるのです。

しかしながら採点機能を使って練習していると、つい得点ばかりに目が行くものです。
そして、音程が当たっていれば当然高得点にも繋がります。
ただ、そこで満足するのではなく、さらに発音の聴こえ方を意識した練習をすると、
一段も二段も上の、聴き手の印象に残る歌唱になるはずです。

ビブラートについても同様で、
10年以上前にカラオケDAMの「ランキングバトル」「精密採点(初代)」等にて、
ビブラートを加味した採点が導入されたことからカラオケユーザーに意識され、
「ビブラートをつけて歌うと高得点が出やすい」と言われるようになりました。

実際、昨年唯野が制作協力をさせていただいた番組の街頭インタビューでも

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といった意見がありました(日本テレビ「※諸説あります!」より)。

しかしながら、これはカラオケの点数を上げたい場合のお話。
先ほどのSuperflyさんの例からもわかると思いますが、
プロ歌手の方は、ビブラートを使う使わないも含めて、語尾を使い分けて歌っています。

なので、プロ歌手を目指しているくらいの有望な実力の持ち主が、
「ビブラートをつけたほうが良い」的な歌い方になってしまうのは、
どうも採点機能に「頼りすぎて」いるからなのかなと感じてしまうのです。

プロ歌手の歌唱力を判断するのは、聴き手でもあるファンや一般の方々。
つまり「人」です。
そういう意味でも、カラオケ採点機能を使って歌って、
音程が合っていてビブラートが入っていればそこその点数になって、
そこで満足してしまう、というのは非常にもったいないことかと思うのです。

音程が合っているだけでなく、効果的に聴き手に伝える発声をするにはとか、
ビブラートを多用するのではなく、歌い終え方を使い分けて余韻の残すにはとか、
「聴き手=人」を見据えた練習をしていくと、もっともっと良くなると思います。

なので、採点機能よりも、録音・録画機能による練習の方をオススメします。
自分の歌を録音してその場で聴き返してさらに歌い直す、といった練習です。

採点機能には「点数を意識するな」と言われてもどうしても意識してしまうという、
ある種の中毒性があります。
ですので、プロを目指されている方であればむしろ、
練習の際には極力使わないようにするほうが良いかと思います。

「お願い!ランキング」の放送中に、お笑い芸人のニッチェさんが
「ビブラートを入れた方が高得点が出るんだよ~」
とコメントされていました(フォローするためのコメントかと思いますが)。

カラオケの採点機能で高得点を取りたいのか、
多くのファンに感動してもらえる歌を歌える歌手になりたいのか、

プロを目指される方は、このあたりを一度振り返っていただくと良いかと思います。

今回応募された全ての方々は、芸能界に入れるだけの将来性が十分にありました。
今後、その素晴らしい才能が花開くことを期待しています。

<追伸>
番組では応募者を大募集しています。
スマホで歌唱動画を録画してテレビ朝日さんの以下のフォームから送信するだけでOKのようです。
http://www.tv-asahi.co.jp/onegai_ranking/form/mania.html

合格者が増えてくるとテレビを介した大掛かりなオーディション大会が開催されるかもしれません。
明日のプロ歌手のご応募をお待ちしています。

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